2章 原動力は正論より納得解、共感解:リーダーシップとモチベーション

○行動モデル

 人間の行動要素を非常に単純化したのが、「意識」「感情」「行動」モデルです。心と頭と足腰、スポーツでいうと「心技体」です。行動モデルは、意識(左脳)×感性(右脳)⇒行動につながるというものです。

 自分の頭で理解して行動するか、心で感じて行動するか、ということです。どっちが行動に結びつき、かつ長続きし、困難に打ち勝てるのか考えてみましょう。


○正論と納得解

 「正論」に対応するのが「意識」、「感情」に対応するのが「納得解、共感解」です。

 「正論」と「納得・共感」では推進力としてどちらが強いのでしょうか。「正論・正解」は論理解、左脳ではじき出された解です。筋道だった論です。対して、「納得解」は必ずしも「理屈通り」ではありませんが、腑に落ちた答えです。共感、つまり、「同じ感情をもてる解」です。

 「感情」という言葉を辞書(漢字源)で調べますと、「感」は、「戈(か)」(片方に枝が出たほこ)でショックを与えて、心を強く動かすこと。強い打撃や刺激を与える意を含みます。「情」は心の動きをもたらすエキス。ともに、「心を動かす」ものであることが分かります。ある目的に「心が動く」ことが「心に火をつける」ことだと解釈できます。

※筆者は、「心に火をつける」=モチベーションと定義しています。また、リーダーシップは、「心に火をつけて、率いる」ことと定義しています。つまり、ハートを鷲掴みして、「一緒にさあ行くぞ」と引っ張って行くこと。


○言いかえると

 別の言い方では、「人から与えられた正論」対「自分で考えた納得解」という言い方もあるでしょう。「共感・納得できないが正論だ」 対 「正解ではないが、共感・納得できる」。「何となくしっくりこないけど、正しい」 対 「理屈は荒削りだけど、何となくおもしろい」

 正論を逆に書くと、「正しいのだけれども、つまらない」。これは石田光成がそうだったとか。反対に、「無鉄砲だけど、おもしろい」。豊臣秀吉。まったく正反対の二人だったので合ったのかもしれません。

 ある経営者の言葉です。「選択肢はたくさんあるので、どれも正しい可能性があるんですよ。その中で最も正しいのを選ぼうとせず、最も共感されるものを選んだ方がいい。その方が達成しようという推進力になります。共感はすごく大事です。一番大事かもしれない」。いかがですか。

 納得解、共感解の方が推進力・原動力になり続けます。何故なら、心から大事と感じたからです。


○事例

 例えば、筆者は酒豪の部類でしたが、身体を心配して妻に「控えて」と言われ続けました。しかし、「ああそう、わかった」と言いつつ止めませんでした。正論で意識に訴えられても、だめなんです。強く「そうだな」と思えないんです。その後何が起こったかというと、50歳手前で自覚症状があり、酒がまずくなりました。また、一度意識を失い危うく大怪我になりそうなことがありました。そして、健康診断でγ-GTPが120が告げられました。肝硬変になってもおかしくないと言われる数値です。これは効きました。「がつん」ときました。「止めないとまずい」と。

 色々な選択肢を考えました。前提としては免疫力を高め、薬に頼らない選択肢です。「全く酒を止めようか。無理だ。」「少なくできるか。今までトライしたができなかった。」「どうする。事が事だけに、できないと言っている場合ではない。出来ることから手をつけるとすれば、外で飲むのを止めるか。現実的ではない。じゃあ、家で飲むのを止めよう」と考えるに至りました。「危機感を伴った納得解」でした。今までは週6日飲んでいたのを、家で全く飲まない。外で飲むのは、週2、3日です。7分の6⇒7分の2か3、に減少した訳です。

 このように感情で「がつん」と来るほうが強いんですね。これが「気付き」です。危機感として「心に火をつける」ことのです。どちらかと言うと、「お尻に火がついた」です。


○火をつけるポイント

 同じように「すごいな」「おもしろいな」などそういう感情に訴えるものが行動につながり、かつ、長く続きます。「すごい・格好良い」「なるほど」「おもしろい」「やってみたい」「やった」「自分がやらねば」「まずい」という言葉で表現されます。

前回の例では、バスケットボールの桜木花道、田伏選手など。どんな困難も全く関係ありません。身長が低くてもそれを乗り越える努力を惜しまない。好きだからです。

 つまり、「心に火をつける」のは、「憧れ(ロール・モデル)・本物」「共感・納得感」「好奇心・チャレンジ精神」「達成感」「使命感」「危機感」「競争心」を刺激することなのです。