モチベーションの自己決定理論:自分で決めたことは「やる気」に

〇自己決定理論とは


内発的モチベーション理論の代表的なものに「自己決定理論」があります。平易に言えば「自分で決めたことは「やる気」になるが、誰かに決められたことは「やらされ」になる」というものです。学ぶこと働くことなど多くの活動において、自律的であることが動因(動機)でやる気につながり、高いパフォーマンスや精神的な健康をもたらすとする理論です。

いくつかの側面があります。


〇3つの基本欲求「基本的心理欲求理論」


生得的欲求は生理的欲求と心理的欲求があります。

ダニエル・ピンクは『モチベーション3.0』の中で、モチベーションを、生理的欲求に基づく「モチベーション1.0」、報酬など外発的動機づけに基づく「モチベーション2.0」、心理的欲求に基づく「モチベーション3.0」と分類しています。

心理的欲求には以下の3つがあるとしています。


1)自律性欲求:束縛されず自由にやりたい、自分で決めたい

2)有効性欲求:うまくなりたい、うまくやりたい

3)関係性欲求:他の人と良い関係を持ちたい


中でも「自律性欲求」が中核です。自由に自分で決めたことはやる気になるのです。


3つの欲求をまとめると


モチベーション=自分で決める ☓ うまくなる  ☓ 良い関係をつくる


と書くことができます。「自分の頭で考え決めて、学び工夫しうまくなり、チームに貢献する意識」がモチベーションを高めることがわかります。

偶然か必然か、「社会人基礎力」と極似しています。


社会人基礎力 =主体的に動く ☓ 学び工夫する ☓ チームワーク


〇報酬や順位付けは逆効果「認知的評価理論」アンダーマイニング効果、エンハンシング効果


自発的に学習していた児童にご褒美を与えると、次第に報酬が目的化し内発的モチベーションが低下します。報酬が目的になるとともに統制感にもなります。同じく順位付けすると他者から統制されている圧迫感、緊張、不安を高める「統制的」心理状態を引き出します。

これを「アンダーマイニング効果」と言います。


報酬でもほめ言葉など支援的なものは内発度を強化します。絶対評価は有能感、満足感を高める「情報的」心理状態を引き出します。

「エンハンシング効果」と言います。


このように報酬や順位付けなどで内発的モチベーションがどう変わるかとするのが「認知的評価理論」です。


〇外発的モチベーションでも内発化する「有機的統合理論」


「勉強していい大学に行きなさい」という昭和的、古典的言い回しは、外発的モチベーションです。しかし、次第に自己決定に近づけることが可能です。


「外的調整」   勉強していい大学に行きなさいと言われいやいや勉強している

「取り入れ的調整」勉強しているうちに負けたくないと思い勉強に身が入った

「同一化的調整」 勉強しているうちに自分の将来を考えて勉強するようになってきた

「統合的調整」  そうこうするうちに勉強することがおもしろいので自主的に勉強している


取り組んでいるうちに楽しさ面白さを発見し「統合的調整」に近づくことがありますし、また、ストロークや場作りで近づけることができます。


〇特性・性格も関わる「因果志向性理論」


自律的志向性が高い人は、何事も好んで自己決定し生き生きと行動することが多い特性があります。タイプI(内発型)と言います。

統制的志向性が高い人は、他者から統制されて物事を決定し嫌々ながら行動することが多い特性があります。タイプX(外発型)と言います。

非自己的志向性が高い人は、無気力な為行動そのものが起こりにくい人です。

自律的志向性は育むことができます。現代的課題は自律的志向性の高い人材を育てることです。


〇目標の内容が大事「目標内容理論」


内発的人生目標とは、自律、成長、貢献などの目標です。健康的な生活を送ることがわかっています。

外発的人生目標とは、金持ちになる、外見を褒められること、有名になるなどの目標です。不健康な生活を送ることが示されています。


自己決定理論というごとく、「報酬でなく活動を楽しむこと」「きっかけはどうであれ自発化する統合化」「自律的志向性の高い人になる」「内発的人生目標を立てる」などを選ぶことができるのです。

跡見学園女子大学・佐藤研究室(リーダーシップ・モチベーション論、経営心理学)